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心理学エッセンス

臨床心理学分野

「しっくりくる」「腑に落ちる」についての心理学

青木 剛

2016.07.12
「しっくりくる」「腑に落ちる」についての心理学

 新年度がスタートして、はや3ヶ月目に突入しましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。私は通学課程の授業も担当していますが、通学生は7月に入ると学期末が目前に迫って、学期末の試験やレポートが大きな関心事となり、大学内が少しそわそわし始めます。

 ところでみなさん、レポートや文章を書くときに自分の文章が「しっくりくる」、「腑に落ちる」ように感じられた経験はありませんか。あれやこれやと文章表現を考え、きちんとそれが言い表せるように苦心されるような経験は、レポートに限らず映画の感想を友人から聞かれた時や、職場の人間関係について職場以外の人に伝えるときなどあるでしょう。そして、うまく表せたときに「しっくりくる」、「腑に落ちる」ように感じられます。
 
 言葉は辞書を引けば特定の意味があり、何かを言い表すにはその意味を繋げばいいはずです。しかし、言いたいことを表すには、辞書的な意味では表せているはずなのに、「しっくりこない」ということがしばしばおこります。気に入った映画や本があったとして、その良さを表すのに「面白い」という一言では「しっくりこない」でしょう。辞書的な意味は合っていても言い表せていない何かがあるのですね。つまり、私たちが言い表したいことには、辞書的な意味以上の含みをもった「意味」があります。かつ、その辞書以上の「意味」が表せたかどうかは、身をもって体感できます。みなさんが「しっくりくる」言葉を選ばれた時、身体的にもホッとするような感覚や、笑いが起こったり、時には涙が出てきたりするような身体的な反応を伴います。「腑に落ちる」という言葉の「腑」とは、「心」という意味合いもありますが、「内臓」、「はらわた」という意味合いも同時にあり、腹に納まるようなそんな身体感覚を含む状態を表した言葉なのでしょう。他にも「はらわたが煮えくり返る」や「胸がはずむ」といった言葉のように、日本語には感情について身体的な感覚を用いた表現が多いと言われています。このような身体的な感覚について、来談者中心療法を創始したロジャーズは、「感官的内臓的経験(sensory and visceral experiences)」と呼び、さらに後続して実践・研究を進めたジェンドリンはそうした身体的な感覚をフェルト・センス(felt sense)と名付けました。ジェンドリンはそのような身体的な感覚を活用した心理療法としてフォーカシング指向心理療法を創始しました。フォーカシング指向心理療法は、人が抱える悩みは今表せていない「何か」を指し示していると考え、それが何なのかについて、そうした身体的な感覚を手掛かりに模索する方法とも言えます。
 さて、話をレポートに戻しますが、この身体的な感覚をセンサーに言葉選びをすると、闇雲に言葉を埋めるレポートではなく、自分にとって納得のいく(しっくりくる)表現ができたレポート、あなたが表したかったものを表したレポートを仕上げることができます。また、夢中で書いたレポートを見直す際に、このセンサーを用いて見直すと、より伝わるレポートになりやすいかと思います。レポート以外にも、人に何かを伝える時、あるいは人の話を聞いている時に、そうしたセンサーを活用することもできますので、日常生活でも試してみると面白いかもしれません。私自身、何を食べようか決める際にも、そのセンサーにしっくりくるものを選ぶなどしています。ただし、そのセンサーと照合する作業は結構な時間を要することもあります。センサーにばかり気を取られていると、レポートなどの提出期限が過ぎてしまっては困りますので、提出期限にはご注意くださいね。