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心理学エッセンス

臨床心理学分野

思春期の自立とは

井上 裕樹

2016.12.13
思春期の自立とは

 私は、自身の心理臨床のフィールドとして、10数年来スクールカウンセリングの現場に携わってきています。そこで、私のカウンセリングの関わりの中心の一つでもある思春期の自立というテーマについて、この場を借りて、お話できればと思います。
 思春期という時期は、子どもたちにとって、身も心も大きく変化する時期だと考えられます。その中でも、この年代の子どもたちにとっては、自立というテーマが大きな課題となってきます。「思春期を迎えた子どもは、依存と自立の混在のなかで、親との心理的距離を次第に広げていく」(梅村、2014)というこころの動きや、友達とのやり取りを通して、自身を見つめ直したり、自分らしさを発見したりしていきます。このような自立へ向けてのこころの動きは、一度親の心理的領域から飛び出すと完了といった類のものではなく、身体的成長も伴い、絶えず自身の内で感情としてうごめき、時には、反抗といった形で表現されます。そこで、この「自立」というタームを、改めて思春期の心理的な動きとして捉え直してみると、「親の心理的領域への留まり」と「親の心理的領域からのとび出し」ということを繰り返すことで、親との心理的な境界(境目)を築いていき、親とは違う一人の人格を持った人間になろうとするこころの揺れが生じているこの時期特有のこころのあり様だと言えるのではないでしょうか。
 また、衣斐(2005)は思春期の子どもたちについて「これまでは家族との関係が自己意識のベースであったが、この時期になると仲間との関係をベースにして自己意識を広げていく」と述べています。そこには、自立のテーマとして親から離れようとする動きと同時に、アメリカの精神医学者であるサリヴァンのいう「チャムシップ(chum ship)」というような思春期特有の人間関係の中で味わう親密さも対比的な体験として、彼らのこころの揺れを支える大切な要素となってくると考えられます。この時期に生じてくる孤独感やさみしさ、自分の感覚を言葉にできないもどかしさなどを仲間と共有しながら自己を見つめ直す作業を行う時期でもあります。そのため、このような親や仲間との関係を通して、自身の中に生じてくる何とも言えない孤独を感じながら、仲間を求めたり、自分らしさを探したりしながら、上記で述べたような自身と他者(もしくは仲間集団)との境界を再設定していくことが、彼らの自立というテーマとして見て取れるのではないでしょうか。

 しかし、上述してきたようなこころの内の作業がうまく行えず、周囲と自分の違いをなかったかのようにして、他者に合わすことにばかり注意が向き、無理に無理を重ねて、自分を見失ってしまう子どもたちもスクールカウンセリングの現場では多く見受けられます。このような場合、私は、周囲の関わる大人が、対処法に始終するのではなく、その困りごとにこころを使って関わっていき、子どもたちが困りごとを困りごととして捉えることができるように援助していくことが非常に重要だと考えています。そして、この考えをベースに相手とのやり取りで感じ取った自分の感覚をツールとして、これからも日々変化する思春期の子ども達のそれぞれの課題について考えを深め、関わっていければと思っています。
参考文献
梅村高太郎(2014):思春期男子の心理療法―身体化と主体の確立、創元社.
衣斐哲臣(2005):仲間と自分、臨床心理学5(3)、金剛出版、329-339.