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心理学エッセンス

社会・産業心理学分野

「美」と引き替えに危険を冒すのか

中川 由理

2017.12.22
「美」と引き替えに危険を冒すのか

 先日,気になるものを見つけました。高級化粧品ブランドの売り場に神々しい姿で鎮座している「美容クリーム」となるものである。化粧品に興味のない方にしてみれば全く理解できない領域の商品でしょうが,どうやら,肌の代謝を上げ,健康的な血色・つやにし,外的な有害物質からも保護し,シミやしわを抑制し,将来的にもその効果を発揮し,私を美しくしてくれる可能性があるものとのこと・・・。「買うしかない」,私の心は直観的にそう叫んだのですが,理性的な判断でその行動はストップさせられました。
 化粧を施す,服を着るなどの装い行動の心理学分野では,「美」について様々な検討がされており(被服行動や対人魅力などのキーワードでそれらの研究が行われている),そのポジティヴな影響が明らかになっています。「美」の効果については科学的な研究による裏付けを知ることがなくても,美しくなった自分の姿を見て気分がよくなったり,他者から褒められたりするなど,日常生活の中で経験的に理解することもあるので,私たちの美しくなりたいという欲求は高まるばかりです。
 このことを反映して,美容に関わる産業業界では様々な製品やサービス,美容医療技術などが日々進化を遂げて世に出てきています。新しいモノがでると,その効果について大きな期待をしてしまい,どうしても試してみたくなってしまいますね。しかし,使用するという判断を行う際には,それを使用することによって引き起こされる危険性についても同時に考慮しなくてはなりません。
 たとえば,化粧品を使用することによって,肌の健康状態がよくなったり,リラクゼーションの効果が得られたり,美しい顔になることによって他者からよい評価がされるという効果があるかもしれません。一方で、肌に合わず肌を傷めてしまい,場合によっては重篤な健康被害を受けるという危険性もあるかもしれません。

 あなたはどの程度の危険度であれば許容して「美」を求めますか。
 どのような危険性があっても「美」が得られるのであれば,その行為を選択する人もいるでしょう。
 反対に,どんなに強力な「美」が得られる可能性があっても,ほんの少しの危険性があるとその行為を選択しない人もいるでしょう。

 このように,得られる効果(ベネフィット)のみならず危険性についても考慮して判断を行うことを「リスク判断」といいます。
 正しいリスク判断を行うには「リスクリテラシー」というリスク判断能力を高めることが重要であると言われています。このリスクリテラシーはリスクに関する情報を集め,理解するための科学的な基礎知識を有すること,リスクを低減するための方法を理解すること,リスクに対処する適切な行動をとる能力のことであり,科学的な思考を基盤にしているとされています。
 化粧品を使用するという身近な行動においても,その化粧品の効果と危険性についての情報を集め理解し,被害を受けないようにするにはどうすればよいかを考え,もし被害を受けてしまったときはどうするべきかを考えることが重要になってきます。
 このように何気ない日常生活においても「科学的思考」がいかに重要であるかがおわかりいただけましたか。怖がらせる訳ではありませんが,私たちの身の回りは意外と危険でいっぱいなのかもしれません。一度,身の回りの危険性について注目して,「リスク判断」を意識的にしてみませんか。

 というわけで,今回は,40000円もするその美容クリームを購入してしまうと食費がなくなり,しばらく食事による栄養摂取ができなくなるという危険性を考慮(リスク判断)して,美容クリームを購入しませんでした。というお話でした。

参考文献
楠見孝(2007)リスク認知の心理学 子安増生・西村和雄(編) 経済心理学のすすめ 有斐閣