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心理学エッセンス

臨床心理学分野

悩むプロセスとこころの健康

青木 剛

2018.02.27
悩むプロセスとこころの健康

 「健康」というと、かなり多くの人が同じ意味を共有しているかのように思えます。しかし、本当に意味は共有されているでしょうか。インターネットで調べると、1番目に「異状があるかないかという面からみた、からだの状態。」(デジタル大辞泉, 小学館)という意味が出てきます。広く理解されやすいのは上記のような意味でしょうが、最後の「からだの状態」の部分を「こころ」と置き換えて「こころの健康」を考えた場合、あまり適さない場合もあると思います。
 こころの健康に関して言うと、「悩む」状態や「落ち込む」状態は「病んでいる」と一般的に言われやすいように、一見健康的な状態と言えないかもしれません。「くよくよ悩んでないで前を向こう」、「落ち込んでいても仕方がない」という励ましがなされることがあるように、悩まずにいること、落ち込まずにいることは確かに、快適さという観点からは望ましいかもしれません。しかし、そうでない場合もあります。私は臨床心理士として思い悩む人や行き詰って落ち込んでいる人にお会いすることも多いです。そのような人たちとの関わりから、決して「悩む」こと、「落ち込む」ことは単純に回避することがいいとは言い切れないと思うのです。さらには言えば、そうした経験はむしろ、ある意味健康的なプロセスであったと思えることも少なくありません。
 「悩む」こと、「落ち込む」ことには、現状にない何かを模索するプロセスが潜んでいる場合があります。それは、当初には悩んでいる本人でさえ何なのか分からず、分からないにもかかわらず漠然とした、けれども確かに不快な感じだけがあったりします。何かは分からないまでも、それがどういった感覚なのか、何によって引き起こされているのか、これまでの自分の在り方とどのように関わっているのかがカウンセリングで模索されます。この模索の過程が、「悩む」過程と言える場合があります。この過程の中で、改めて自分を振り返り、これまでの在り方、感じ方、表し方が注意深く見直され、そこで次のささやかな一歩が見出された後になって初めて、その何かが「これだったのか!」と明白に気づく瞬間が訪れることがあります。このように考えると、悩まずに不用意な一歩を踏み出すことよりも、悩んだり落ち込んだりしながらも、注意深く振り返りつつ模索して踏み出される一歩こそ、大切な一歩であるとも考えられます。上手く悩み、落ち込み、それがプロセスとして進展しゆくこともまた、健康的なプロセスであると捉えることができるのではないでしょうか。