ESSAY心理学エッセンス

女子力はどこからやってくるのか

心のなかにある財布(心理的財布理論)

中川 由理

2018.07.09

社会・産業心理学分野

 「女子力」と聞いてどのようなことをイメージするでしょうか。一度はどこかで聞いたことがある言葉かもしれません。おそらく,想起されるイメージはパステルカラーのスカートやパンプス姿,身だしなみが整っている,優しい心遣い,などというようなものではないでしょうか。「実際にはそんな女性ばっかりじゃない。男性だって身だしなみを整えているし,優しい心遣いもしているよ!スカートだって履くし!」というごもっともなツッコミがはいるでしょうが,一体どこからこのような「女子力」のイメージがつくられるのでしょうか。

 社会心理学の領域では,このような集団が持つ特徴について過度に一般化されたイメージや知識のことをステレオタイプとよび,特に男女のそれぞれが持つべき特徴のことをジェンダーステレオタイプといいます。つまり,「男性はやんちゃ,決断力がある,数学が得意」「女性はやさしい,繊細,数学が苦手などというような社会的に規定されている行動様式や性格についての「男らしさ」「女らしさ」がジェンダーステレオタイプです。「女子力」というのも「女性はこうあるべき」という社会に期待された一種の行動様式であるといえるでしょう。
 私たちは知らず知らずのうちにこのジェンダーステレオタイプに影響を受けています。女の子として生まれればピンク色のひらひらフリフリのお洋服を着せられ,かわいいお姫さまが王子さまを待つ映画を見たり,そして大人になってからも女子力を鍛えるべきだという声を家族や社会から聞かされたりすることもあるのです。

ジェンダーステレオタイプはこのような外見や性格だけではなく,個人の能力までも影響を及ぼすことが数々の実験によって明らかにされています。例えば,バーバラフレドリックソンら(1998)は、実験参加者に水着(男性はトランクス,女性はワンピース)を着てもらい数学のテストを実施しその点数を比較しました。すると,セーター姿では男女の数学テストの点差は無かったのに対して,水着姿でのテストの点差は,女性は男性よりも有意に低くなっていたのでした。これは,水着を着ることにより恥ずかしさが湧き上がり,自分自身を対象化させ女性であることを意識した結果,女性のジェンターステレオタイプが強調され,そのステレオタイプ(女性は数学が苦手である)を反映してしまうからだと解釈されています。これは自身の着ているものが自己の行動に影響を及ぼし,ステレオタイプ的な行動をしてしまう可能性があるということを示唆しているといえるでしょう。

このように私たちは知らず知らずのうちにジェンダーステレオタイプの影響を受けてしまっていますが,男性は「男らしく」,女性は「女らしく」しなければならないということは一切ありません。好きなスタイルや行動様式を自由に取り入れて自身を作ればよいのではないでしょうか。
 女性であってもクールな服を着るのが好きで,大群の荒々しい車が荒野を疾走していたり,破天荒なアクション,ブラックユーモアが満載の映画が大好きだというようにジェンダーステレオタイプとは合致していなくても,それは女性としてとても魅力的だし、面白いことなのだと私は思います。

参考文献
Fredrickson, Barbara L.,Roberts, Tomi-Ann,Noll, Stephanie M.,Quinn, Diane M.,Twenge, Jean M.(1998) That swimsuit becomes you: Sex differences in self-objectification, restrained eating, and math performance.
Journal of Personality and Social Psychology, Vol 75(1), 269-284