ESSAY心理学エッセンス

私は○○ファンです。

私は○○ファンです。

中川 由理

2021.02.10

社会・産業心理学分野

みなさんは何の「ファン(=芸能・スポーツなどの熱心な愛好者。また特定の俳優・選手・人物・団体などをひいきにする人)」ですか。音楽ファンでしょうか。ゾンビ映画ファンでしょうか。スター・ウォーズファンでしょうか。ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンファンでしょうか。私たちは,スポーツやゲーム,アニメ,ミュージシャン,作家,映画,アイドル…等,様々なものを好きになり,頻繁に試合会場に応援しに行ったり,一日中ゲームをしたり,アニメのコスチュームを着てキャラクターになりきったり,ミュージシャンの音楽作品やTシャツなどのライブグッズを買い集めたり,好きな作家の良さをファン同士で語り合ったり,好きな映画のシーンを独りで再現してみたり,アイドルのライブツアーに遠征したりと,このように思う存分に楽しんでいます。

ファンの行動は経済的な効果など様々な効果が見込まれることから心理学の分野のみならず経済や都市計画の分野などでも注目されていますが,さて,このようなファンの行動は,私たち自身の心理にはどのような影響をもたらすのでしょうか。

Dill-Shackleford(2016)は,ファンのスタイルは,その対象に関しての内向きで私的な考えや感情,行動がファン行動の中心となる個人的なファンと,その対象への愛を他の人と共有したいと思う参加型ファンの2種類があると述べています。この個人的なファンは,ファン対象が自分と似ているのだと同一視し,その世界に没入して模擬的にその世界の出来事を経験することで,実際の生活では得ることが難しい理解を獲得し,参加型ファンは,他者と一緒にファン対象になりきり,その世界の物語を共有することで,自分の好みは良いのだと認められた感覚になり,自身の肯定感を高めるといわれています。

また,ファンの一連の行動,すなわちファン活動は,余暇活動(趣味活動)の1つであるといえるでしょう。余暇活動は,個人が楽しみや幸福のために従事する活動で,仕事や日常的な家事,家族や自分に対する世話とは独立したものであり,地域・社会活動,友人との交流,スポーツ,学習活動,文化的活動,旅行,創作芸術活動,植物の世話,ゲームなどの活動を指します。この余暇活動を多く行う人は,主観的幸福感を経由して介護予防に効果を発揮したり(Menec,2003),認知機能障害予防に効果を発揮したり(Wang et al.,2012),ストレスフルな状況に対処していける能力に対応する概念であるレジリエンスを高める効果がある(村中ら,2019)ことが明らかにされています。ファン活動にもこのような効果が期待できそうですね。

このような効果から余暇活動を積極的に行うことが推奨されていますが,最近の新型コロナウイルス感染症の流行の影響で,余暇活動も制限されてしまい,ストレスが高まっているのもかかわらず,「充実した余暇活動が行えていない!」という方は多いのではないでしょうか。そこで,1つ提案ですが,何か「ファン」の対象を見つけてみるというのはいかがでしょうか。もしかしたら,その世界は意外に奥深く,私たちに様々な有益なことを教えてくれるかも知れません。活動が制限された中でも,インターネットを活用すれば,過去の作品や情報も知ることが出来ますし,グッズの購入もファン同士の交流も可能です。是非,個人的なファンと参加型ファンになって,ファンの世界を一緒に盛り上げていきませんか。

※文章中の用語で気になるものがございましたら是非とも検索してみてください。もしかしたら,ファンになるきっかけになるかも知れません…

参考文献
Dill-Shackleford,K.E.,(2016). How fantasy becomes reality: Information and entertainment media everyday life.(カレン,E,ディル-シャックルフォード(著)川端美樹(訳)(2019).『フィクションが現実になるとき-日常生活にひそむメディアの影響と心理』 誠信書房)

Menec V.H. (2003). The relation between everyday activities and successful aging: a 6-year longitudinal study. The Journals of Gerontology, 58(2),S74-S82.
村中久美子・大川尚子・倉恒弘彦(2019) 教員の余暇活動とレジリエンスの関連 Jouenal of Health Psychology Research 31, 2,101-111. Wang HX, Xu W, Pei JJ. (2012). Leisure activities, cognition and dementia.
Biochimica et Biophysica Acta(BBA)-molecular basis of disease,1822(3), 482-491.