ESSAY心理学エッセンス

しない後悔よりもする後悔・する後悔よりもしない後悔[後編]

しない後悔よりもする後悔・する後悔よりもしない後悔[後編]

白木 優馬

2021.10.25

社会・産業心理学分野

確かに「しない」でいれば,後悔は小さいかもしれません。しかし,それは同時に,「する」ことで得られる成功を逃すことにもつながります。たとえば,実はクラスメイトがあなたのことを好きで,告白していたらOKをもらえたのに…という場面で,「する後悔」を恐れて行動しないのは,明らかに失敗でしょう。「する後悔」を恐れずに,一歩踏み出すためにはどうしたらよいのでしょうか。さらに言えば,過去に行動して失敗した事実は変えることができません。きっと,過去を振り返ればたくさんの「する(した)後悔」が見つかることでしょう。過去に冒してしまった「する後悔」はどうしたらよいのでしょうか。やり直せない過去を悔やみ続けるしかないのでしょうか。
ここで大事になるのが,失敗した過去の振り返り方です。Valentiらの研究は,過去の振り返り方によって,「しない後悔」と「する後悔」の大きさが逆転することを発見しました。実験では,過去に「行動して失敗した経験」または「行動しなくて失敗した経験」を思い出すよう,参加者は指示を受けました。つまり,「する後悔」または「しない後悔」を想起してもらったということです。このとき,各条件内で半分の参加者は,過去を追体験するように,本人視点から失敗場面を振り返えるように求められました(①)。他方,もう半分の参加者には,まるでスクリーンに投影された映像を見るように,第三者視点から失敗場面を振り返得るように求められたのです(②)。最後に,振り返った失敗に対して感じている後悔を評定してもらいました。実験の結果,本人視点から振り返った条件(①)では,する後悔の方がしない後悔よりも強いことがわかりました。これは,上述した先行研究 (Landman, 1987) と同じ結果です。一方で,第三者視点から振り返った条件(②)では,する後悔よりもしない後悔の方が強いことがわかりました。つまり,振り返り方を変えることで,後悔の強さの逆転現象が起きたのです。Valentiらは,本人視点から振り返る場合は,出来事の失敗に焦点が当たってしまうため,行動した事実が後悔を強める一方で,第三者視点から振り返る場合は,そのイベントをより人生の大きな文脈に位置づけることができるので,行動した事実をポジティブにとらえることができるためであると解釈しています。
日々,様々な選択を迫られる生活の中で,選択を誤らずに生きていくことは(おそらく)不可能でしょう。これからの人生の中で,「するかしないか」迷う場面はきっとたくさんあるはずです。「後悔しない選択を!」とあれこれ考えてみるのも確かに重要ですが,たとえ行動して失敗してしまったとしても,ある程度は気の持ちようでコントロールできるのかもしれません。同時に,後悔には,同じ失敗をしないように,自分の行動を改善する機能もあります。自分で後悔の気持ちをコントロールしつつ,後悔の気持ちによって自分を改善しながら,後悔とうまく付
き合っていきたいものですね。ちなみに私は,「しない後悔よりもする後悔だぞ」と発破をかけてきた友達を今でも恨んでいます(笑)

Landman, J. (1987). Regret and elation following action and inaction: Affective responses to positive versus negative outcomes. Personality and Social Psychology Bulletin, 13, 524-536.
Valenti, G., Libby, L. K., & Eibach, R. P. (2011). Looking back with regret: Visual perspective in memory images differentially affects regret for actions and inactions. Journal of Experimental Social Psychology, 47, 730-737.