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心理学エッセンス

発達・教育心理学分野

金子みすゞの詩によせて

中村 和夫

2011.10.31
金子みすゞの詩によせて

 蜂と神さま

蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町の中に、
町は日本の中に
日本は世界の中に
世界は神さまの中に。
そうして、そうして、神さまは、
小ちゃな蜂の中に。

(金子みすゞ)

 子ども(大人でも)が金子みすゞ(みすず)のこの詩の面白さを理解できるためには、いったいどんな心理的な力が必要でしょうか。

 まずは、

蜂<お花<お庭<土塀<町<日本<世界<神さま

と順番にとてつもなく大きくなっていくのに、最後には「神さま>蜂」ではなく、何と「蜂>神さま」というどんでん返し(パラドックス)の面白さがあります。このどんでん返しの驚きや面白さがわかるには、「A>B、B>CならばA>C」という推移律の理解が必要ですし、それが組み合わさった系列化(大きさの順にとか、長さの順にものを並べる)の操作の理解が必要です。

 しかし、このような知的な力だけでは不十分です。なぜ、一番小ちゃなはずの蜂の中に一番大きなはずの神さまが入るのか。論理的には矛盾です。でも、「小ちゃな蜂」は「命ある存在」です。だからそこには神さまが宿っているのです。命は大切で、尊くて、かけがえがなく、重いものです。だから命ある存在は小ちゃくとも、とてもとても大きな存在(無限?)なのです。この詩の理解には、こうして、「命ある存在としての小ちゃな蜂」への共感が不可欠です。この共感があるところでは「神さまが小ちゃな蜂の中に宿っている」ことは何ら矛盾ではありませんね。

 論理的な知的な力と共感性といった感情的な力が絡み合って(システムを構成して)、私たちの想像力や想像性が発達していきます。抽象的な人間ではなく、生活している人間のこころの現象やその意味を理解するためには、こうした想像の発達の姿をトータルに捉えていくことが必要だと思います。

 最後に、もうひとつ金子みすゞの詩を掲げます。パラドックスの中に、子を思う母のあふれる愛情と愛の大きさを、子供の私の成長していく喜び、生の躍動、未来への信頼、広がるこころの世界を理解していただければ幸いです。

こころ

おかあさまは
おとなで大きいけれど
お母様の
おこころは小さい
だってお母様はいいました
小さい私でいっぱいだって
私は子供で小さいけれど
小さい心の私は大きい
だって大きいお母様で
まだいっぱいにならないで
いろんなことを思うから

(金子みすゞ)