心理学エッセンスイメージ心理学エッセンスイメージ

心理学エッセンス

発達・教育心理学

私の新著の紹介

中村 和夫

2018.09.11
私の新著の紹介

 この9月の始めに私の新しい著書が出版されました。『ヴィゴーツキーの生きた時代[19世紀末~1930年代]のロシア・ソビエト心理学―ヴィゴーツキーを補助線にその意味を読み解く―』(福村出版)というものです。主には、10月革命後のソビエト心理学の一断面を分析したものですが、私のヴィゴーツキー研究の一定の総括としても位置づけられます。

 ヴィゴーツキーは1896~1934年の生涯ですから、「ヴィゴーツキーの生きた時代」とは、いわゆる1917年の10月革命を挟んだ約40年間を意味しています。新生「ソビエト連邦」の黎明期には、それまで地球上に類例のない社会主義国家建設のために、政治・経済だけでなく、芸術・文化や科学の革命も要請されました。たとえば、この時代のソビエトの芸術・文化運動に興味を持つ人は、「ロシア・アヴァンギャルド」という言葉を聞いたことがあるでしょう。こう呼ばれる人たちは、芸術・文化の革命家ですが、マヤコーフスキー(詩人)、プロコーフィエフ(作曲家)、エイゼンシュテーイン(映画監督)といった名前なら、知っている人もいるでしょう。この時代のソビエトの芸術・文化運動については、日本でも早くから研究が進められ、その精緻な研究成果が公刊されています(たとえば、国書刊行会『シリーズ:ロシア・アヴァンギャルド』全8巻、1988~95)。

 これに対して、同じ時代のソビエト心理学については、わが国では、系統性を持った総合的な研究が今日までおこなわれていませんでした。私の新著は、遅ればせながら、この空白を埋めるものです。その場合、新著で同時代を「ヴィゴーツキーの生きた時代」と規定したことには、重要な意味があります。この時代のソビエト心理学の持つ意味を浮き彫りにできる準拠枠として、ヴィゴーツキーが展開していた批判や創造していた心理学理論が有益だからです。この時代の多分野にわたるソビエト心理学の展開(経験的心理学、反射学や反応学、精神分析、児童学、精神工学など)の中で、ヴィゴーツキーは、ある場合にはその重要な当事者になりつつも、常に、それらの動向をメタ思考によって吟味しつつ、それらの長所も短所もその本質において明らかにしているのです。新著では、こうした理解を助ける補助線として、要所に<ヴィゴーツキーの補助線>欄を挿入しています。そこでのヴィゴーツキーの議論を参照することで、その前段までに述べられてきた問題の持つ意味が浮き彫りになることを期待してのことです。

 このことは、同時に、この時代のソビエト心理学の歴史を「地」としつつ、ヴィゴーツキー理論を「図」として焦点化することにもなるでしょう。そして、このことは、ヴィゴーツキー理論それ自体の、歴史的および今日的な意義をあらためて私たちに確認させてくれることにもなります。この意味で、このたびの新著は、私のヴィゴーツキー研究の一定の総括となるものでもあるのです。興味を持たれた人は、手に取っていただければ幸いです。