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心理学エッセンス

子どもが嘘をつきやすくなる養育環境

子ども・教育 New

田口 恵

皆さんは「嘘」といわれたら,どんなイメージを持つでしょうか。きっと良くないものだと感じる方が多いのではないでしょうか。「嘘つきは泥棒の始まり」や「金の斧・銀の斧」,「オオカミ少年」など,私たちの身近なところには嘘が望ましくない結果を導くことを示唆することわざや物語があふれており,人が嘘をつくことに対してあまり望ましいイメージを持っていないことは想像に難くありません。実際に,嘘をつくことは,周囲の人からの信頼を損なったり,人間関係を悪化させたりと望ましくない結果を導くものであり (McCornack & Levine, 1990; Schweitzer et al., 2006),こうしたこととも関連して,道徳的に望ましくない行為であると考えられていることが明らかにされています (Backbier et al., 1997)。

こうした嘘に対する否定的なイメージから,私たちは子どもたちに対しても,「嘘をついてはいけない」と教えます。皆さんの中にも,そのように教えた経験がある方やそういった場面に立ち会ったことがある方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。ある研究では養育者の多くが子どもたちには「嘘をついてはいけない」と教えていることが示されています (Heyman et al., 2009)。

ところが,興味深いことに,こうした養育者自身も,子育ての中では子どもたちに対して様々な嘘を用いていることが明らかにされています (Heyman et al., 2013)。例えば,食べ残しをする子に対して「もったいないお化けが出るよ」と伝える,外出先で駄々をこねる子に対して「もう置いていくよ」と伝えるといった具合です。こうした発言は,実際には事実ではないことを伝えることで,(食べ残しや駄々をこねるなどの)子どもの困った行動に対処することができるので便利な側面もあります。

一方で,近年では,こういった子育てにおける嘘の使用の負の側面も明らかにされつつあります。具体的には,子どもが幼少期のうちに,親が上記のような嘘を用いた子育てをしているほど,子どもたちがのちに嘘をつく傾向が高まることが示されています (Santos et al., 2017; Setoh et al., 2020)。すなわち,養育者が何気なく使用した嘘によって,将来,子どもたちが嘘をつきやすくなる可能性があるのです。

さらに,こうした影響は,子どもが嘘をつきやすくなることにとどまりません。Santos et al. (2017) や Setoh et al. (2020) の研究では,子育てにおける嘘の使用は,子どもたちの嘘の使用傾向を高めることに加えて,抑うつや攻撃性の傾向が高くなることも示唆しています。子育てにおける嘘の使用は,その場の子どもの困った行動や課題に対処するうえでは,手っ取り早く便利な方法となる場合もあるでしょう。しかし,その場では便利に思える声掛けであっても,長期的には子どもの発達に影響を及ぼす可能性があります。子どもたちの将来を思えばこそ,子育てにおける養育者の声掛けには注意が必要かもしれません。

引用文献

Backbier, E., Hoogstraten, J., & Meerum Terwogt-Kouwenhoven, K. (1997). Situational determinants of the acceptability of telling lies. Journal of Applied Social Psychology, 27, 1048-1062.
Heyman, G. D., Hsu, A. S., Fu, G., and Lee, K. (2013). Instrumental lying by parents in the US and china. International Journal of Psychology, 48, 1176–1184.
Heyman, G. D., Luu, D. H., and Lee, K. (2009). Parenting by lying. Journal of Moral Education, 38, 353–369.
McCornack, S. A., & Levine, T. R. (1990). When lies are uncovered: Emotional and relational outcomes of discovered deception. Communications Monographs, 57, 119-138.
Santos, R. M., Zanette, S., Kwok, S. M., Heyman, G. D., & Lee, K. (2017). Exposure to parenting by lying in childhood: Associations with negative outcomes in adulthood. Frontiers in Psychology, 8, 1240.
Schweitzer, M. E., Hershey, J. C., & Bradlow, E. T. (2006). Promises and lies: Restoring violated trust. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 101, 1-19.
Setoh, P., Zhao, S., Santos, R., Heyman, G. D., & Lee, K. (2020). Parenting by lying in childhood is associated with negative developmental outcomes in adulthood. Journal of Experimental Child Psychology, 189, 104680.