ESSAY心理学エッセンス

喩えることのおもしろさ:自分を動物で喩えると…?

喩えることのおもしろさ:自分を動物で喩えると…?

河﨑 俊博

2021.07.12

#こころの健康

最近の自分自身を振り返ってみて、その状況を動物で喩えてみると、どのような様子の動物が浮かぶでしょうか?
働いているカバでしょうか?あぐらをかいているキリンでしょうか?あるいは、オスライオンのために働いているメスライオン?それとも、勉強熱心なナマケモノ…?

心理療法の一つにフォーカシング(Focusing)(Gendlin, 1981)と呼ばれる方法があります。フェルトセンス(Felt sense)と呼ばれる、からだの感じを手がかりに自己理解を深める方法で、ユージン・ジェンドリン(1926-2017)によって考案されました。彼は、アメリカ心理学会による賞を5度も受賞しており、最近でも2020~2021年の生涯功労賞(アメリカ心理学会)を受賞したアメリカの哲学者・心理学者です。
ジェンドリンは、その著書のなかで、喩えることについて興味深いことを書いています。
“あなたの怒りは、どのように椅子と似ていますか?How is your anger like a chair?”(Gendlin, 1986, p.150)。

一見するとよくわからない喩えですが、彼はこの例を挙げて、共通性はその瞬間に生み出されると解説します。つまり、椅子と怒りは、何も共通していないように思われますが、その瞬間に「私の怒りは、固定椅子のように居座っている(…イスだけに)」や、「(パイプ椅子のように)すぐに収めることができる」という言葉が出てくるかもしれません。このように、怒りを椅子で喩えることによって、どのような怒りであるのか自己理解を深めることができます。
共通性を初めからわかっていて、2つの事柄を挙げるのではなく、その瞬間に“なんとなく”気になったことを手がかりにし、「どんなふうに似ているかなぁ?」と、からだの感じに照らし合わせてしっくりくるものを選ぶのです。しっくりこないものはモヤモヤっとして、からだが教えてくれるので、違うなぁ、と体感できるしょう。さて、時を戻しましょう。

最近の自分自身を振り返ってみて、その状況を動物で喩えてみると、どのような様子の動物が浮かぶでしょうか?
“なんとなく”しっくりくる動物を選んでみましょう。浮かんできた動物の生態系を手がかりにすることもできます。

たとえば、「最近の自分を振り返って観ると、夏バテしているハイイロオオカミのような感じがする」と話した場合、何が浮かぶでしょう?
一匹狼という言葉もあるし、一人で過ごしている?いえいえ、狼の多くは群れで暮らして、面倒見もいいんです。じゃあ、童話に出てくる狼?いえいえ、悪者でもないし、ウソもつきません。どれもしっくりこないなぁ…あ、夏バテなのか集中力が続かず、狼のように諦めやすくなっている!最近の自分は諦め癖がついているなぁとしみじみと振り返って観る…。
このように、動物を手がかりとして自己理解を深める方法もあり、普段の様子を動物で喩えることで、自分の生き方についてのヒントを得ることができるかもしれません。 動物の喩え(メタファー)を使った自己理解の方法をアニマル・クロッシング(アニクロ)と呼びます。アニクロはフォーカシングの応用ワークであり、詳細を知りたい方は、下記の文献欄にあるアニクロ(池見ら,2019)を調べてみてください。

文献
Gendlin, E. T.(1981): Focusing (2nd ed.). New York: Bantam Books.
Gendlin, E.T. (1986): Let your body interpret your dreams. Illinois: Chiron.
池見 陽・筒井優介・平野智子・岡村心平・田中秀男・佐藤 浩・河﨑俊博・白坂和美・有村靖子・山本誠司・越川陽介・阪本久実子(2019):アニクロ:体験過程理論から見出された実存的なワーク. Psychologist:関西大学臨床心理専門職大学院紀要,9, 1-12.