ESSAY心理学エッセンス

やっぱり、わかってもらいたい
―コミュニケーションのお話―

やっぱり、わかってもらいたい
―コミュニケーションのお話―

宮井 研治

2023.09.15

#コミュニケーション

ずいぶんと若い頃から、人とうまくつながるにはどうしたらいいのかと考えてきたような気がします。これは、家族で仲良く過ごしたいだとか、職場の人間関係を良くしたいとかいったことではなく(もちろん、それも含みますが)、その理由は職業柄によるものでした。大学の先生になったのは、つい最近と言えば言えるぐらいであり、福祉現場で対人支援の仕事が長かったからです。一番長かったのが、児童相談所の心理職です。児童相談所だけでなく、児童心理治療施設のセラピストなんかもしばらくやってました。そこでうまくコミットしたい対象はとなると、やって来る親御さんや、子どもたちです。福祉の現場の特徴として、みんながみんな、相談にのってほしくてやってくるわけではない場合があります。特に、虐待に絡むような相談はこちらから声をかけて、無理に来てもらうというようなことが起こりやすい。考えたら、いやいややってきた人とコミュニケーションをとるのが難しいのは当たり前なんですが、妙な使命感や専門家意識があり、これがまたコミュニケーションをさらにややこしくしてしまうということが多々あったように思います。

で、紙面の都合上いきなり結論へと入っていきます。たぶん公式定理①「人は、簡単に分かり合ったり、理解したりできるもんではありません」これは、コミュニケーションの放棄ではなく、 それぐらい難しいものだということです。 それを前提にすると、 あら不思議、 ぜんぜん分かってもらえないという思いが、 難しい中でこれぐらいできたらマシだと思えてくるわけです。 少しマシだと思えると、 諦めずに関わっていこうという前向きな気持ち、 好循環の始まりへと進む可能性が、 高まります。 ぜんぜんあかんと思うのとは、 明らかな差異を生じます。

たぶん公式定理②「コミュニケーション上手な人が、 必ずしも話し上手、 聞き上手とは限らない」二十世紀の心理療法の大家の1人、 ミルトン・エリクソンが、 「どうしたら、 人に自分の話を聞いてもらえるようになるんでしょうか?」と迷える弟子に問われて一言。 「小さい声でボソボソと喋りなさい。 そうすれば、 人は一生懸命聴き耳をたてたり、 聞き返したりしてくれますよ」と言ったとか言わないとか。 「もっとはっきり喋れ!」と叱られるかもしれませんが、 話し上手、 聞き上手にならなければという縛りからは解放されませんか。 コミュニケーションについての小話でした。