ESSAY心理学エッセンス

ベースの音に魅せられて出会った音楽の力

ベースの音に魅せられて出会った音楽の力

雲財 啓

2023.12.20

#趣味

ふと振り返ってみると、人生の半分以上の期間、ベース(呼び方は色々ありますが、弦楽器で一番低い音が出るやつです)に触れてきていることに気づきました。ベースとの出会いは、高校でオーケストラ部に入ることを決めた時、「低い音が好きだから」という理由でいくつかの楽器から選んだこと(そしてじゃんけんに勝って選択権を得たこと)が出会いでした。その後、大学生になってからも大学のオーケストラに所属したり他大学や社会人のオーケストラにお邪魔させてもらったりと、色々な場所で演奏する機会に恵まれたことが、今もベースを弾き続けていることにつながっていると思います。オーケストラ全体を支えるベースならではの低音が好きなことはもちろん、色々な曲に触れて感じたり考えたりすることも楽しく、自分にとって音楽に触れる時間は心を動かしてくれる大切な時間です。
例えば、自分の好みで申し訳ないですが、シベリウスというフィンランドの作曲家がいます。彼の曲を聞く中で感じるのは、自然の美しさや透明感です。実際に行ったことはないのであくまで想像ですが、濃い緑の針葉樹が生い茂っているきれいな風景、心地良い冷たい静かな空気感など、色々なことを感じます。また、自分の中の近い経験を思い返していけば、雪が積もった冬の日、まだ誰もいない朝の澄んだ静かな空気の道を歩いた感覚でしょうか。普段は割と車が通る道でしたが、積雪が影響してか車は少なく、いつもより空気がきれいで気持ちよかったことも覚えています。このような形で、シベリウスの曲を聞いている時には、色々なことを思い起こして、良い気分になることがあります。
シベリウスの曲を聞く時、自分の中では色々な方向に心が動くことがあります。だいぶ大げさな言い方になりますが、心の中に溜まっていたものが洗い流されていくような気持ちです。心理学の観点から考えれば、これはカタルシス的な効果と考えることができると思います。精神分析などの中で用いられるカタルシスとは異なるとは思いますが、非言語的な表現を通して、普段は言葉にできない感覚を味わうことは、カタルシス的な効果と考えられるでしょう。自身の経験で言えば、様々なことが思い起こされて良い気分になったり、爽快感で満たされて色々な煩わしいことから自由になったりと、好きなものに心が動かされることで様々な効果があることを実感します。
音楽に限った話ではないようにも思いますが、自分にとっては、音楽は心を動かしてくれるものの一つで癒されてきました。この記事を読む方も、ご自身にとって心を動かしてくれるものに思いを馳せて、自分のことを振り返るのは良い時間になると思います。すさまじいスピードで駆け抜けていく毎日ですが、時には自分の好きなものに触れて、自分を大切にしてみるのはいかがでしょうか。

参考文献
氏原 寛・亀口 憲治・成田 善弘・東山 紘久・山中 康裕 (編) (2004). 心理臨床大事典 培風館