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被疑者・被告人に寄り添える、刑事弁護の実現へ
在学生 西谷裕子さん
正科生3年次編入学
刑事弁護士
生来の特徴や生い立ちのせいで、
罪を犯してしまう人がいるという現実。
人間は、生まれ持った特徴や置かれた環境の影響を受けながら生きていますが、それがハンディとなり犯罪につながってしまうことがあります。しかし刑事裁判の場では、それらがほとんど考慮されず、「その人の意思決定のみで犯罪を行った。だから、その人だけが悪い」という、いわばフィクションで裁判が行われている現状があります。
そんな中で、私は刑事弁護専⾨の弁護⼠として、主に「治療的司法」の事案に取り組んでいます。治療的司法とは、被疑者・被告人に対して、ただ刑罰を科して終わりではなく、医療・心理・福祉などの観点からのアプローチで再犯防⽌をめざす考え⽅。例えば薬物依存症や窃盗症、知的障害、発達障害、幼少期の虐待などの影響で、罪を犯してしまうことがあります。そのような場合、再犯防⽌には刑罰よりも、適切な治療やケアが必要です。そこで弁護⼠である私が、被疑者・被告人からのヒアリングなども踏まえ、精神科医や心理職、福祉関係者といった⼈たちと協⼒し、彼/彼⼥たちの問題を分析した上で、「なぜ犯罪に至ったのか」「どうすれば更生できるか」「そのために必要な治療は何か」などに関して意⾒書や診断書を法廷に提出。適切な判決が下され、彼/彼女が二度と再犯しないで生きていけるように⼒を尽くします。
多様な仕事や背景をもつ「同志」の存在が、
継続的な学びのモチベーションに。
たちばなエクールに入学後、私は休日に集中的に勉強を進めましたが、後期に入ると履修が必要な授業が格段に増え、スケジュールのやりくりに苦労しました。そのなかでモチベーションになったのは、スクーリングの授業。クラスの仲間とともに、主にディスカッションを行うのですが、印象に残っているのは授業の内容以上に、心理を学ぶ同志の多様さでした。発達障害のお子さんをもったことをきっかけに入学された方や、ご友人が自死してしまった経験が学びの動機になっている方…。それぞれの想いを抱え、真摯に学ばれている皆さんの姿勢に気が引き締まりました。
心理の専門知識を携えていることが、
刑事弁護士としてのスキルを高めてくれる。
そうして得られた心理の学びは、現在さまざまに活きています。1つは、被疑者・被告人と接見した際、発達障害や知的障害、精神疾患などの存在を⾼い精度で判断できるようになったことです。生まれ持った特徴や環境要因が影響して罪を犯したという可能性を相談の初期段階で把握し、適切な機関と連携できるかどうかは、その後の被告人の更生、判決内容にも⼤きく関わります。
もう1つは、⼼理学の知⾒に乏しい刑事司法の場で、裁判官や検察官と対峙して、被疑者・被告人の⼼理的状態や障害による影響を説得的に説明できるようになったこと。被告人の背景に配慮を示さない刑事司法の場で、障害などの生来の特徴や虐待などの影響があったことを語り、人間的な刑事裁判を取り込もうとする弁護⼠として闘えるようになりました。
これまでさまざまな依頼をお受けしてきた中で感じているのは、「思いも寄らないことから、⼈は犯罪者になってしまう」ということ。例えば、誰でもうつ病になる可能性がありますが、それが重症化して心中や殺人事件につながることがありますし、介護疲れからの介護殺人なども多数発生しています。また発達障害が見逃され、未支援のまま成長したことで、生きづらさを抱え摂食障害に。それが万引きにつながってしまうといったこともよくあります。そのとき、彼/彼女らが抱える背景を考慮した上で適切な裁判が行われる社会であるべきだと思うのです。刑事裁判は社会復帰をめざす最初のステップ。一人ひとりの心に寄り添う司法が、全ての人が安心して暮らせる社会につながるはず。今後は臨床心理士、公認心理師の資格取得も視野に、弁護士としての自身の強みを磨いていきます。