ブランド志向の心理学
ブランド志向の心理学
2017.07.28
#お金・暮らし
「日本人のブランド志向」はしばしば指摘されるところです。欧米人に比べて日本人のそれがより強く、また内容的にみた場合に「猫もしゃくしも」という感じの画一化の傾向が顕著であることは、アメリカの文化人類学者であるルーズ・ベネディクトが述べた「恥の文化」という言葉に象徴されるような同調傾向の強い国民性に起因すると一般には考えられていますが、本当のところはどうなのでしょうか?
ブランド志向の心理的な構造を解明するために上智大学の杉本徹雄教授は大学生を主とする278名の女性を対象とした質問紙調査により得られたデータを分析しました。その結果ブランド志向を構成している心理的因子としてつぎの7つが見いだされました。
(1)自己表現因子(自分の好みやフィーリングが表現できる)
(2)優越性因子(イメージアップができ、優越感が感じられる)
(3)反同調性因子(周りの人が持っていないブランドを持ちたい)
(4)話題性因子(話題になっているブランドを持ちたい)
(5)逸脱回避因子(ブランド品を持つことで異端な人と思われたくない)
(6)不協和回避因子(ブランド品を購入すると後悔することが少ない)
(7)品質評価因子(ブランド品は品質が良く、それだけ値打ちがある)
以上の研究結果からは「ブランド品を購入する」という一見すると単純で画一的な行為の背景には、じつは多くの心理的因子が介在していて、「ブランド志向の心理」というものが見かけ以上に複雑な構造を持っていることが分かります。
これらのうち「6.不協和回避因子」は高額の商品を買ったあとにはかならずといって良いほど生じる「これを買って本当に良かったのだろうか?」とか「ほかにもっといい商品があったのではないか?」といった後悔の気持ち(認知的不協和)を抑制することになります。また「7.品質評価因子」は、商品機能の高度化や複雑化のために、最近は特に難しいとされる商品選択に必要な時間や労力を省略し、かつ間違った商品を選択して買ってしまうというリスクを低減する役割を果たします。
つまり「ブランドの代価」という一定のコストを払うことによって、あまり労力や時間をかけずに満足のいく良い商品を手に入れることができ、買ったあとに不満足感が生じることも少なくなるというわけです。
こうして考えると「情緒性と非合理性の象徴」のような「ブランド志向」も「賢い消費者」が商品選択のために用いる合理的で有効な手段となりうることが指摘できるといえます。