ESSAY心理学エッセンス

たちばな心理学の新著
『心理学概論 -こころの理解を社会へつなげる』
の紹介

たちばな心理学の新著
『心理学概論 -こころの理解を社会へつなげる』
の紹介

日比野 英子

2018.10.12

#おすすめの心理学書籍

 本書ははじめて心理学を学ぶ人のために書かれた本です。京都橘大学健康科学部心理学科の教育課程「たちばな心理学」での出発点として、心理学の世界を紹介する世界地図としての機能を果たすように作られています。願わくは、心理学世界の旅行を楽しく深く味わってほしいものです。

 心とは、見えないのに誰もがその存在を確信しているという、不思議なものです。まだ1歳に満たない乳児でさえ、他者の心の在りどころを探して、じっとその人の顔を見つめます。また、大学の授業で受講生に「心はどこにあると思いますか」と尋ねると、一番多いのが頭を押さえる人、次に多いのは胸を押さえる人です。その他はまだ出会ったことがありません。この本の著者たちは、人間をこころとからだを併せ持つ存在として捉えています。言い換えると、人間を生物心理社会的な存在と考えています。それで本書では、こころとからだを繋ぐと考えられる心の生物学的基盤の説明から出発して、心理学世界を案内していくことにします。心の生物学的基盤というのは、具体的には神経系の仕組みのことを指しますが、難しい各部の名称を暗記することに腐心しないでください。大切なのはそれがどのような心の働きとかかわっているかということを理解することです。

 さて、皆さんは○○心理学の、○○にはどのような言葉が入ると思いますか。学習、発達、社会、臨床などの語句が入ると、心理学の様々な領域があることがわかります。心理学は人間の心の中で起こることや外界に働きかける行動に現れることを扱いますので、実に多様な領域に分かれていますし、単に分化しているだけなくその領域間でも重なったりつながったりしているところがあります。複雑に思えるかもしれませんが、これを一つの基準で整理すると、基礎的心理学から応用心理学へと並べることができます。読者のみなさんは医学の世界の「基礎」と「応用」に例えるとよく理解していただけるのではないでしょうか。医学者の中には遺伝子研究やウィルスの研究などのような基礎研究を行っている研究者もおられ、その一方で病院において実際に患者さんたちの医療に尽力されている臨床医もおられます。この基礎と臨床の仕事が両輪となって医学が進化しているのですが、心理学もこれと似ていて、基礎的な研究を積んでいる分野と、そこから得られた知見を実際の生活場面や臨床場面に役立てて人々を支援している分野があります。また、基礎研究も実際の日常場面や臨床場面からの問題提起を抜きにしては、研究目的が空疎なものになってしまいます。まさにこれらは両輪として進化していきます。本書では、基礎心理学から応用心理学へという順序に従って,みなさんを心理学の世界へ誘います。

 本書の第1章では心理学がどのように生まれたのか、心理学とはどのような学問で、どのような方法論で研究するのかについて簡単に紹介してあります。第2章から第16章において、心理学世界の各地すなわち現代の心理学の諸分野を紹介します。みなさんはどの分野に興味を強く持たれるでしょうか。強い関心を持たれた分野については、さらに専門性の高いたちばなエクールの専門科目で学んでください。それらはきっとみなさんの向学心を満たしてくれるでしょう。
 どうか、みなさんの心理学への興味が最終章までみずみずしいままで持続しますように、願ってやみません。

「心理学概論
-こころの理解を社会へつなげる-」

監修・著
日比野 英子

編著
永野 光朗
坂本 敏郎

共著
青木 剛/井上 裕樹/上北 朋子/塩谷 尚正/中川 明仁/奈田 哲也/濱田 智崇/菱田 一仁/藤原 勇/細谷 周史/前田 洋光