ESSAY心理学エッセンス

“逃げるが勝ち”って本当?

“逃げるが勝ち”って本当?

杉山 智風

2023.10.16

#こころの健康

「逃げるが勝ち」とは、一見逃げることは恥ずかしいことに思えるが、不利な戦いはせずに逃げたほうが結果的に勝利できる、という意味のことわざです。このことわざを、普段の生活のなかで実感することはありますでしょうか?私はまさに今日ポケモンをしていて、『すごく捕まえたいポケモンだけど、レベル差がありすぎて負けるだろうからやめておこう…』ということがありました(笑)もう少し真面目な例を挙げるなら、『志望校のレベルを落として確実に合格しよう』、とか、『上司の言うことには逆らわず、プロジェクトを円滑に進めることを優先しよう』、とかでしょうか。たしかに、戦い続けることが必ずしも良い結果に結びつくわけではないですよね。そういう意味では、「逃げるが勝ち」は、立派なストレスコーピングの1つです。とはいっても、「逃げるが勝ち」のストレスコーピングばかりを使っていると、デメリットが大きくなってしまう場合もあります。たとえば、いつもノー勉でテストを受けたら単位を落としてしまうかもしれませんし、好きな人をいつまでもデートに誘わなかったら別の人と付き合ってしまうかもしれません。では、良い事態をもたらす「逃げるが勝ち」とは、どういう場合なのでしょうか?
実は、私たちが使うストレスコーピングは、大きく8種類に集約されるといわれています(鈴木,2004)。この8種類について、少しかみ砕いた表現でご紹介すると、①情報を集める、②諦める、③ポジティブに考える、④考えないようにする、⑤計画を立てる、⑥話を聞いてもらう、⑦人のせいにする、⑧リラックスする、です(鈴木,2004)。「逃げるが勝ち」は、「諦める」のストレスコーピングに分類することができます。この「諦める」のストレスコーピングは、「頑張るエネルギーを蓄えるために、一時的に問題から距離を置いて息抜きをしよう」といった意図的な使い方をした場合に、精神的な健康を促進させることが明らかとなっています(森田,2008)。つまり、良い事態をもたらす「逃げるが勝ち」のためには、問題に立ち向かうのをやめている間は頑張るエネルギーを蓄えて、その後に他の種類のコーピングを試す、といった戦略をとるのが良さそうです。とはいっても、ストレス状況に直面してから慌てていろんな種類のストレスコーピングを探すのは大変です。そのため、日頃から「諦める」以外のストレスコーピングも用意しておくことが、ストレスとうまく付き合うコツといえます。(ポケモンでも、みずタイプばかりのパーティより、いろんなタイプがいるパーティを組んだ方が勝ちやすいですよね!)
みなさんも、逃げ出したくなるような問題や、頑張ることに少し疲れてしまったときには、一日だけやるべきことを投げだして、次の日から他のストレスコーピングを試す、という戦略をとることもアリかもしれません。

引用文献
森田美登里(2008).回避型コーピングの用いられ方がストレス低減に及ぼす影響 健康心理学研究,21(1),21-30.
鈴木伸一(2004).3次元(接近-回避,問題-情動,行動-認知)モデルによるコーピング分類の妥当性の検討 心理学研究,74(6),504-511.