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心理学エッセンス

行動神経科学分野

やる気と報酬の関係について1
-アンダーマイニング効果-

坂本 敏郎

2015.03.20
やる気と報酬の関係について1-アンダーマイニング効果-

 スキナーが確立したオペラント条件づけの1つの型に報酬学習があります。お腹をすかせたネズミを箱の中にいれ、レバーを押せば餌がでるような環境に置くと、ネズミはレバーを押して餌を得ることを学習します。人の場合だと、一生懸命仕事をしたので、それが認められて給料がよくなった。だからもっと一生懸命仕事をする、といったところでしょうか。子どもなら、勉強を頑張ってテストでいい点数をとったので、親や先生からとてもほめられた。だから次も頑張って勉強する、という状況が思い浮かびます。どちらも美しい話ですが、人の『やる気と報酬』の関係について詳しく調べると、それほど単純ではないことがわかってきます。

 心理学の学習理論では、行動の頻度を高めるような報酬(金銭やほめ言葉)のことを強化子といいます。強化子をうまく与えることで、人の望ましい行動は増えるでしょうか。給料がよくなると、社員はもっと働くようになるのでしょうか。ほめることで、子どもは勉強やお手伝いをするようになるのでしょうか。実は、報酬が人の行動にとって良い影響を与えない、そんな場合もあることが報告されています。

 アンダーマイニング効果という現象があります。人が自発的に進んでやっていること(専門的には、内発的動機づけに基づく行動といいます)に金銭的報酬が与えられると、一時的に行動は増えますが、その報酬がなくなると行動(やる気)は減少してしまうという現象です。自発的な行動とは、例えばスマホのゲームや、お年寄りに席をゆずるなど、進んで行っている行動と考えてください。もともとは何の報酬もなく行っていた行動に対して、1回すればいくらもらえるという金銭的報酬が与えられると、その報酬がなくなれば、自発的な行動は減少してしまう可能性があるということです。大学生が行うパズルゲームで発見された現象なので、全ての自発的な行動にあてはまるのかどうかはわかりません。とはいっても、興味深い現象です。人が自分の意志で誇りをもって取り組んでいること(子どもなら純粋に楽しんで行っていること)を金銭的報酬で操作することは難しい、時には逆効果になってしまうことさえある、ということを示唆するものです。

 さらに興味深いことに、このアンダーマイニング現象は『ほめ言葉』を報酬として与えた場合には生じない、という結果があります。進んで行っている行動に対して、『ほめ言葉』を与えた時には、その行動は減少しません。この結果は『ほめる』ことのすばらしさを実証したともいえるでしょう。最近では、『厳しく叱って育てるよりも、ほめて育てる方が子どもはのびる』と言われることが多いです。しかし、『ほめる』ことは万能薬でしょうか? 次回は『ほめる』ことについて考えます。