ESSAY心理学エッセンス

恋愛と免疫

恋愛と免疫

岸 太一

2022.10.07

#コミュニケーション

 数年前の出来事になりますが,ある結婚相談所が「DNAマッチング」というサービスを始めました。結婚を希望する人々のDNAを調べ,「相性が良いDNAを持つ人」を紹介してくれるそうです。正確にはDNAすべてではなく,免疫と関係しているHLAというものを調べているそうです。
この話を聞いて皆さんはどう思うでしょうか?個人のHLAは遺伝的に決まっているので自分と恋愛関係になるのにふさわしい人が,実は生まれた時点で決まっているかもしれないわけです。こんな話,信じられるでしょうか?
 もちろん,恋愛や結婚生活がうまくいくかどうかには多くの要素が関係しています。例えば価値観が似ていることなどはよく言われます。心理学の研究の多くはカップルの間に多くの共通性がみられることが仲の良さと関連しているとしています。じゃぁHLAも共通点が多い方が恋愛もうまくいくのか…と思われるかもしれませんが,実はHLAに関しては逆なんです。「似ていない」ほうがいいようなんです。ここで,ある研究をご紹介しましょう(Wedekind et al., 1995)。
 女性に,複数のTシャツの匂いをかいでもらって,それぞれのTシャツに対して「その匂いをどの程度魅力に感じるか」を評価してもらいました。実はそのTシャツは異なる男性が2晩ほどずっと着てもらっていたので,その男性の体臭がついていました。ですので,女性たちはTシャツについた男性の匂いを評価していたことになります。
 実験の結果,Tシャツを着ていた男性のHLA(研究ではMHCと表記されています)が女性のそれと異なるほうが似ている場合に比べ,「魅力的」と評価したそうです。また,その匂いから「現在のパートナーや以前のパートナーを思いだす程度」も異なっていたそうです(つまり,HLAが異なる男性をパートナーに選ぶ可能性が高い)。
 この研究は「免疫のタイプが恋愛や結婚相手の選択に影響している」可能性があることを示しています。もちろん,先ほども述べたように実際の恋愛や結婚相手の選択には多くの要素が関係しているので,免疫のタイプだけで相手を選んでいるわけではありません。この研究結果と異なる結果となった研究もあります。ただ,こういう話を聞くと,恋愛や結婚の際に「『運命』の赤い糸」という表現が使われることに少しは納得できるのではないでしょうか。個人的には私はあまり「運命」を信じる方ではないですけど…

引用文献
Wedekind, C., Seebeck, T., Bettens, F., & Paepke, J. A. (1995). MHC-dependent mate preferneces in humans. Biological Sciences, 260, 245-249.