ESSAY心理学エッセンス

コロナウィルスに対する免疫力
~ポストコロナにおいて本当に大切なことは?~

コロナウィルスに対する免疫力
~ポストコロナにおいて本当に大切なことは?~

木村 年晶

2020.07.03

#医療・福祉

5月末に緊急事態宣言が解除され,徐々にではあるが様々な活動が再開されつつある。ほっと安心するさなか,大正から続いてきた大阪の老舗フグ料理店の「つぼらや」が閉店した。さしものフグもウィルスには勝てなかったわけである。「自粛」によってもたらされた経済への影響は計り知れない。

自粛をgoo国語辞典で調べてみると,「自分から進んで,行いや態度を慎むこと」とある。つまり,営業停止のような自粛をするかどうかは,その人自身の判断にゆだねられているわけである。にもかかわらず,自粛を要請しても受け入れない店舗は,公開されるという処置がなされ,「自粛要請中」にもかかわらずきわめて非合理な対応をしていると世間からみなされた。しかし,このような行動は本当に「非合理なもの」なのだろうか。

実は人間の行動は,私たちが思っているよりずっと合理的なものである。マスロー(1954)は人間の欲求には5つの階層があり,生理的・安全(飢えないこと,住むところ)の欲求を人間の生命にかかわる欲求とした。たとえば,私が外出を自粛したのは,生命の危機を感じ,単に外に出ることが恐ろしかったからである。一方で,自粛要請に応じなかった店舗は,倒産することを回避するために,自粛を行わなかったに過ぎない。つまり,それぞれが自らの生存のために行動したわけであり,マスローの欲求に基づいて考えれば「合理的」行動ともいえる。

一面だけから物事を見ていては,非合理なものと合理的なものを決めつけられない曖昧さに気づくことができない。また,自粛の背景に隠された社会との断絶感,孤独や寂しさに目を配ることができなくなる。本当に怖いのは,ウィルスではなく,相手の立場や気持ちを配慮せず,表層的に非合理な行動であると決めつけ,他人に対して「非寛容になる」という疾病ではないだろうか。

これから私たちは,コロナウィルスと共存する世界を生きることになる。他人に対して非寛容になる病を防ぐためには,「共感性」という免疫力をつけることが必要ではないだろうか。共感性とは,相手がどう考えているのかを想像し,相手と同じ気持ちになることをいう(Batson, 2011)。先日私の手元にも政府から10万円の給付金が届いた。せっかくの機会だから,使い道についてはよく考えてみたいと思う。できるだけ社会が分断しないように,社会的弱者が切り捨てられないように,頑張っている人が報われるように。

引用文献
Maslow, A. H. (1954). Motivation and personality. New York: Harper and Row. Batson, D. (2011). Altruism in humans. New York : Oxford University Press. 菊池章夫・二宮克美(訳)(2012)
利他性の人間学―実験社会心理学からの回答― 新曜社