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心理学エッセンス

臨床心理学分野

鉄道好きの妄想力

濱田 智崇

2020.12.07
鉄道好きの妄想力

僕は「鉄」、鉄ちゃん、鉄道好きです。僕の「鉄」はわりと重度で、「鉄」によって自分の人生が決まってきたと言っても過言ではありません。たとえば、僕が中学受験を決意したのは、寝台特急(ブルートレイン)に乗りたかったからでした。当時、子どもたちが青い車体の寝台列車を追いかけて写真を撮ったりする姿が見られ、ブルートレインブームと呼ばれていましたが、僕の地元はその通過駅。夕刻、九州に向けて青い流れ星のごとく去っていくのを見て、乗りたくて仕方ありませんでした。親に頼んでも聞き入れてもらえなかったので、ならば大儀名分を作るしかないと考えたのです。鹿児島の中学・高校で6年間寮生活をし、長期休みの度に実家との行き来に利用することで、ブルートレインを堪能しました。
ふと、なぜ自分は鉄道が好きなのだろう、と考えることがあります。そして、幼児健診や保育コンサルのお仕事で時々出会う小さな鉄ちゃんたちを見ていても、鉄道の何がこの人たちをこんなにも惹きつけるのだろう、と思うことがあります。子どもが鉄道好きになる理由については、僕の大学の同級生だった弘田陽介氏が本を書いておられるので、詳しくはそちらをお読みいただくとして、ここではその一部を取り上げて考えてみます。
赤ちゃんの頃は動くもの全般に興味を持っていても、成長につれて、車が好きな子、飛行機が好きな子と分かれていくようです。乗り物の中でも、鉄道がほかと違う大きな特徴は「不自由さ」だと僕は考えています。車は道路があれば大抵のところへ走っていけますが、鉄道は違います。たとえば京都の嵐山まで走っている京福電車は、阪急電車の線路にそのまま入って走ることができません。嵐山から京都の繁華街・四条河原町に出るのに、阪急にそのまま直通してくれたら便利なのに、そうはいかないのです。鉄道は、路線ごとにレールの幅や架線の電圧、通過できる車体の大きさなどが異なりますし、路線の中でも、どの列車がいつどこを走るかが厳格に定められたダイヤに従ってしか走れないので、きわめて制約が多く「不自由」なのです。
鉄道好きにとっては、この「不自由さ」、言い換えれば「枠組の強固さ」がかえって魅力なのではないかと思います。鉄道は、ルールに厳しく縛られているとも言えますが、枠組がしっかり決まっているというのは、イレギュラーが生じにくく、安定した状態が保たれやすいということでもあります。そうした要素は、人に安心感をもたらしてくれます。現場で見ていても、どちらかといえば内向的な子どもが鉄道を好む場合、この枠組みによる安心感が関係していそうです。
また、この「枠組の強固さ」は、鉄道好きの妄想力を刺激します。人が頭の中でイメージを膨らませる際には、何もないところから始めるのは難しくて「自由に何でもどうぞ」と言われるとかえって困るものです。あらかじめいろいろな材料が用意されている方が、それらの組み合わせや応用によって、イメージは膨らみます。鉄道好きは、数多くの強固なルールをベースにするからこそ、豊かな妄想を楽しむことができるのだと思います。そして、鉄道好きの妄想材料の宝庫といえるのが、時刻表です。鉄道好きは、時刻表1冊あれば、日本全国どこでも(イメージの世界で)旅行ができます。COVID-19の感染防止の観点で、自由に旅行をしにくい状況が続いていますが、実際に足を運ばなくても、さまざまな行き先を設定して妄想を膨らませることで、意外と楽しめてしまいます。自分は「鉄」ではないので、時刻表を見るだけでは旅行を妄想できない、とおっしゃる方には、お勧めのテレビ番組があります。「友近・礼二の妄想トレイン」(BS日テレ・月曜 21:00~21:54)です。番組のキャッチフレーズの通り、旅をしない旅番組ですが、よければ一度ご覧になってみてください。
ここしばらくは、いろいろと辛抱が求められる、しんどい時期が続きそうです。せめて、頭の中でさまざまなイメージを膨らませることによって、自分を楽しませたりリラックスさせたりして、どうか皆さん、こころも元気でお過ごしください。

参考文献 弘田陽介(2011)『子どもはなぜ電車が好きなのか-鉄道好きの教育〈鉄〉学』冬弓舎
弘田陽介(2017)『電車が好きな子はかしこくなる-鉄道で育児・教育のすすめ』交通新聞社