ESSAY心理学エッセンス

植物に「こころ」はあるのか?

植物に「こころ」はあるのか?

上北 朋子

2023.11.17

#趣味

知人から月下美人を株分けしてもらって以来、植物に対する愛着が芽生えてきました。今では、リビングにポトスとオリヅルラン、ベランダに紫陽花と桔梗とシクラメン、そして月下美人の鉢を並べて、ささやかなガーデニングを楽しんでいます。
私は動物心理学を専門としています。動物に心があることを説明する機会はたくさんありました。しかし、植物に心があるのかと問われると、正直なところ考えたことすらありませんでした。植物に心はあるのでしょうか。驚くことに、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、植物にも心(魂)があると考えていたようです。植物には栄養摂取、成長、繁殖の能力があり、これが植物の心であると説明しました。う~む。それは心かな?嬉しい、悲しいといった感情を作り出すのが心だと考えていると、アリストテレスには賛同しかねるかもしれません。
心理学の教科書には、身体の内部で生じている事柄が「こころ」であり、「こころ」は環境によってもたらされ、反応として外に現れる、というように説明されています。この定義でいけば、植物にも「こころ」らしき機能が備わっていそうです。春になったら桜が咲き、秋にはコスモスが咲く。きっと気温のような環境変化に、それぞれの植物の内部状態が変化して、反応しているようです。そうすると、この夏の異様な暑さには、植物も大混乱しているだろう、と思いきや、先日訪れた植物園では、何事もなかったかのようにコスモスが一面に咲き誇っていました。猛暑の中、花の準備は大丈夫だったの?
このような疑問をもちながら手に取った本、『植物のいのち』(田中修著)の中に、植物が季節を知る仕組みが解説されていました。植物は季節の訪れを、夜の長さで予知する!なるほど、昼と夜の長さであれば、気温の影響を受けずに季節を知ることができます。しかし、24時間の中で、昼の長さが長くなると夜の長さは短くなる(逆もしかり)。なのに、どのように夜の長さが開花の決定因であることを証明したのでしょうか。実験では、1日を24時間とせずに、夜の長さを一定にして、昼の長さを短くしていく条件と、昼の長さを一定にして、夜の長さを長くしていく条件で菊の開花を比較しました。その結果、昼の長さを変化させた条件では、蕾は作られませんでしたが、夜の長さを変化させた条件では、夜の長さが10時間を超えたところで蕾が作られ、花が咲いたというのです。実験の交絡要因をうまく排除した見事な検証実験です。
植物の能力やそれを明らかにしようとする研究者の工夫を知って、ますます植物への興味が膨らみます。我が家の月下美人は、この夏も花をつけませんでした。なぜだろう。

参考文献
田中 修(2021)植物のいのち 中央新書
中島 定彦(2019)動物心理学入門 昭和堂