子どもたちが教えてくれた「当たり前」を理論で説明することのおもしろさ-ストレスマネジメント教育の実践から-
子どもたちが教えてくれた「当たり前」を理論で説明することのおもしろさ-ストレスマネジメント教育の実践から-
2024.09.02
#子ども・教育
日常生活と密接に関連する心理学という学問は、皆さまにとって、どのような魅力があるでしょうか?いろいろあると思いますが、私がおもしろさを感じるタイミングの1つに、「自分が何気なくやっていたことって、心理学ではこんなふうに説明されるんだ!」と感じたときが挙げられます。そんなに深く考えずにやっていた行動が、学術的に説明できると知ったときって、なんだか少し感動してしまいます。
私の臨床兼研究活動は、小中学生や高校生の学級集団を対象としたストレスマネジメント教育です。ストレスマネジメント教育とは、ストレスとの上手な付き合い方を身につけていただくための支援法の1つです。たとえば、コーピング(ストレスへの対処法)の拡充を目指したアプローチとしては、“推しのライブ”は効果てきめんなストレス発散法ですが毎日はできないので、“昨日見たアニメについて友だちとお喋りする”など、ちょっぴり楽しい毎日できるストレス発散法を考える、といったことが挙げられます。このような授業をすると、子どもたちから、「そんなこと知ってるよ!」「もうやってるよ」という反応が返ってくることがあります。このようなとき、大学院生だった頃は、授業内容が簡単すぎたかな…つまらないかな…と不安になっていました。しかし、今はちょっと違う見方をして、アプローチを考えることがあります。
とある介入実践研究をご紹介します。高校生を対象とした実践において、授業前のコーピング豊富さとストレス対処の自信には関連がみられなかったが、授業中のワークやディスカッションを通して習得したコーピングが、ストレス対処の自信につながったことが報告されています(山本,2013)。つまり、日常生活のなかで何気なく行っているだけでは、「ストレスにうまく対処できた」とは実感しにくく、こうした授業で知識を得たり理解を深めたりすることで、ストレス対処の自信につながる可能性が考えられます。さて話を戻しまして、ストレスマネジメント教育をするなかで子どもたちから、「そんなこと知ってる」「もうやってる」という反応が返ってきたとき、私は、「それって、いつ(どこで、だれと)やるの?」「なんでうまくいったの?」「やる前と後で、楽しい気持ちは大きくなった?」などと、もっと教えて!と深掘りするための質問をするようにしています。こうすることで、その子が何気なくコーピングを行っていた状況や方法を具体的に認識できれば、次に似たようなストレス場面があったときに、「あのときと似ているな、あのコーピングを試してみよう」と取り組めるんじゃないか、というねらいがあります。
心を理論的に説明されることは、ちょっと堅苦しいと思われることもあるかもしれません。しかし、自分の何気ない行動を客観的に捉えたり、あるいは、あえて理論に逆らってみたりと、日常生活をより豊かにするための選択肢が増えるというおもしろさもあるように感じます。
【引用文献】
山本奬(2013).コーピング・レパートリー拡大によるストレス対処の自信尾獲得―ワークシートと話し合い活動の効果の検討― 日本学校心理士会年報,6,71-81.