ボルダリングと心理療法

ボルダリングと心理療法
2025.02.03
#趣味
皆さんはボルダリングをご存じですか?
実は私、かれこれ5年以上ボルダリングを続けているクライマーなのです。ここでは、心理療法と私の趣味であるボルダリングを交えたお話をしようと思います。
ボルダリングとは、ロープなどは使用せずに自然にある岩や高さ3~5mの人口の壁面を登るスポーツのことをいいます。ボルダリングジムではクッション性のあるマットが敷かれているので、気軽に始めることができます。
そしてルールはとてもシンプル。「決められた岩や壁だけを使ってゴールまで登る(ゴールに両手で触れる)」、たったこれだけ。故にとても奥深いのです。対人競技とは異なり、対壁、そして対自分。壁や岩をよく観察し、どのように自分の身体を動かして登るのかを考え、実際に登ってみる。実際に何度か登ってみて難しい場合には、諦めず挑戦するもよし、潔く諦めるもよし、一旦休んでから考えるもよし、誰かに登り方を訊いてみるのもよし。壁と向き合い、自分とも向き合うのです。
ボルダリングの宣伝・・・ではなく説明はここまでとして、本題に入りたいと思います。意外かもしれませんが、Bouldering psychotherapy (ボルダリング心理療法) という心理療法があり、研究の数が少ないものの、うつ病へ一定の効果がある可能性が示唆されているのです。
Luttenbergerほか (2015) は、マインドフルネス瞑想やボルダリングを取り入れたエクササイズ、心理教育等で構成されたボルダリング心理療法のプログラムを、うつ病の診断を受けている人などを対象に8週間(全8回、週に1回3時間)実施しました。分析の結果、このプログラムに参加したグループは、参加していない人たちに比べて、抑うつ症状や自己効力感などに良い変化が得られたという結果が示されました。この結果は後の別の研究 (Stelzerほか, 2018) においても同様の結果が示されました。
なぜこのような効果が得られたのでしょうか。Luttenbergerほか (2015) の考察を抜粋して紹介します。先ず、運動がうつ症状に良い効果をもたらすという先行研究があるように、ボルダリングを通じた運動そのものがうつ病に良い効果をもたらしたようです。また、協力してボルダリングの課題に取り組んだり、お互いに拍手を送ったりといった参加者間の社会的交流も、ボルダリング心理療法の治療的要素の一つのようです。
たしかに私の日頃の実体験として、嫌な出来事があってもボルダリングをすると気持ちを切り替えることができますし、面識のない人からであっても応援の言葉や助言をもらうと嬉しくあたたかい気持ちになるので、この考察は頷けます。
運動不足やストレスの解消に良いとされるボルダリングですが、心理療法に応用することもできるとは。なんと素敵なスポーツなのでしょう。
この原稿を書いていたら無性にボルダリングがしたくなってきました。今日は仕事終わりにボルダリングジムに行こうと思います。
Luttenberger, K., Stelzer, E.-M., Först, S., Schopper, M., Kornhuber, J., & Book, S. (2015年). Indoor rock climbing (bouldering) as a new treatment for depression: Study design of a waitlist-controlled randomized group pilot study and the first results. BMC Psychiatry, 15, 201. https://doi.org/10.1186/s12888-015-0585-8
Stelzer, E.-M., Book, S., Graessel, E., Hofner, B., Kornhuber, J., & Luttenberger, K. (2018年). Bouldering psychotherapy reduces depressive symptoms even when general physical activity is controlled for: A randomized controlled trial. Heliyon, 4(3), e00580. https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2018.e00580