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心理学エッセンス

社会・産業心理学分野

「人は人を支える」ということ

永野 光朗

2018.11.26
「人は人を支える」ということ

 人は人をなぜ支えようとするのでしょうか?
心理学においては,このテーマの源流は1960年代にアメリカの社会心理学者であるラタネらによって始められた援助(向社会的)行動研究にあると考えられます。その動機,個人差,状況による影響など,多くの研究者により,さまざまな研究がすすめられました。
人間が他者を支援するために自身の資源や労力を提供する行動は一般に「利他的行動」と呼ばれます。その根本的疑問は,人はなぜその行動を自発するのか?ということです。直近では列車内で暴漢に襲われた女性を救おうとした男性が命を落とされたという痛ましい出来事もありました。自分の命を引き換えにしてまでなぜ人は人を支えるのでしょうか?
「自身の利益を守る」ことが人間にとっての合理的行動であるとすれば,利他的行動は自身に不利益をもたらす可能性があるという点で,合理性に反する行動となります。これに関して社会心理学の関連分野であり2017年度のノーベル経済学賞をするなど注目を浴びる「行動経済学」では金銭的利益・損失に関して,人間はかならずしも算盤をはじいたような合理的な計算を行っていないと指摘していますが,その拡張により非合理性は金銭の問題だけではなく,利他的行動のような社会的行動にも当てはまることが指摘されていいます。では家族や友人に対してだけではなく,たまたまその場にいる赤の他人に対しても同様の行動をとることはどのように「合理的に」説明できるのでしょうか?
 このことは「進化」という概念を媒介することで説明可能になります。厳しい生存競争のなかで人間が生き延びてきたのは,利他性を進化の過程で身につけたためであるという説明です。つまり利他的行動は個人という視点でみれば「非合理的行動」ですが,人間という種全体が生き延びるためには,人が人を支えるという利他的行動は必須の要件であり,それは「合理的行動」であるという解釈になります。進化という視点から人間行動の仕組みを合理的に説明する分野は「進化心理学」と呼ばれ,これが行動経済学で指摘される「非合理性」を「合理的」に説明する根拠のひとつとなります。
 このような視点に立つと,利他的行動は人間の脳内に仕組まれたシステムが作動した結果(つまり本能)であるという解釈になるでしょう。では深刻な事態に陥った被災地に多くのボランティアがかけつけて支援することや,電車のホームから誤って落ちた人を助けるために自分が飛び降りて命を落としたという勇敢な行為を「本能的行動」ととらえて良いのでしょうか?彼らの崇高な意志への評価を引き下げてしまうことにはならないのでしょうか?
この問いに対する答えは非常に難しいですが,人間の根本的特性としてこのような素質が備わっているという「性善説」を前提とし,それが評価される社会的規範や社会的システムを確立することが重要です。利他的行動が社会を守るための合理的行動として機能し,それが結果的に個人の利益につながる社会の構築を目指すことが,人間が種として存続し,さらに発展していくことに繋がると考えます。
 人は人を支える。この言葉はとても重要で意味深いといえます。