ESSAY心理学エッセンス

お金と幸せの関係

お金と幸せの関係

白木 優馬

2019.11.05

社会・産業心理学分野

 「幸せになりたい」と考える人はたくさんいることでしょう。「幸せ」と聞いて皆さんはどんな状態を思い浮かべるでしょうか。夢をかなえること,週末に友達と出かけること,運命の人と巡り合うことなどなど…。このように一口に「幸せ」といってもたくさんの形があります。

 中でも,とても分かりやすくイメージしやすい幸せな状態として,「お金持ち」があるでしょう。お金があれば,衣食住には困りませんし,高級時計やブランド品を買うことだってできます。(お金で幸せを買うというと,どこか悲しく感じられるかもしれませんが,)やっぱりお金があれば幸せになれるように思います。私もその一人です。ただ,お金と幸せに関して,こうしたイメージと実際のデータとの間には大きな違いがあります。年収と幸せとの関連を見た研究では,一定額までは年収と幸せとの関連はあるのですが,その額を超えると関連がほとんどなくなってしまうことが分かっています。どうやら,お金があればあるだけ幸せになれるわけではないようです。

 それでは,お金で幸せは買えないのでしょうか。この問いに対して興味深い答えを出している研究があります。この研究は,参加者に5ドルを渡して自由に使ってもらうという実験をおこないました。実験の中で参加者は,5ドルの使い方に関して二つのグループに分けられていました。具体的には,「5ドルを自分のために使う」グループと,「5ドルを他人のために使う」グループです。このようにして,この実験は,同じ金額のお金を,自分のために使うか,人のために使うかが幸福感に与える影響を検討していたのです。実際にお金を使った後の幸福感を比較したところ,自分のためにお金を使った参加者よりも,他人のためにお金を使った参加者の幸福感が高いことが示されました。

 こうした研究を踏まえると,お金はたくさんあるけど幸せになれないことも,反対にお金はあまりないけど幸せになることのどちらもあり得えます。つまるところ,お金で幸せを買えるかどうかはその使い方次第ということのようです。単純そうで案外複雑な「お金と幸せの関係」について考えてみてはいかがでしょうか?

参考文献:
Dunn, E., & Norton, M. (2014). Happy money: The science of happier spending.
Simon and Schuster. (ダン, E. & ノートン, M. 古川 奈々子(訳)(2014). 『「幸せをお金で買う」5つの授業』 KADOKAWA)