ESSAY心理学エッセンス

『ため息』の効能

『ため息』の効能

上北 朋子

2021.08.02

#こころと行動の関係

忙しい朝の一仕事終えて「はぁ~」、大量のアイロンかけを済ませて「ふぅ~」、締め切りギリギリに課題を終えて「ふほぉぉぉ~」。今日もすでに、数えきれないくらいため息をついてしまいました。幸せが逃げてしまう(゚Д゚;)いや、もう逃してしまったか???大丈夫、みんな同じです(慰めにならない)。大人は平均で5分に1回ため息をつくそうです。ネズミや犬はもっとたくさんため息をつくそうです。どうですか?これで安心ですね、「ほっ」。

あまりポジティブな印象のない「ため息」ですが、ため息がやる気を高めるという報告があります。井上他( 2016)の実験では、ため息をつく「ため息」群と、普段通りに息をする「統制群」に分けて、難しいパズル課題や単調な課題にどれくらい辛抱強く取り組むことができるかが調べられました。結果、「ため息群」が「統制群」よりも、長く課題に取り組み、課題後も、もっと取り組みたいという意欲が高かったそうです。

ため息のもう一つの効能として有力なのが、ため息の「リセット仮説」(Vlemincx, Van Diest, et al., 2010)です。長く緊張状態やストレス状態にさらされると、呼吸が浅くなってきます。そこで、「ふぅううう~」とため息をつくことよって、肺がストレッチされ、通常の2倍の空気を取り込むことができるのです。この一呼吸によって、次の新たな行動に向かう意欲がわいてきます。普段から、リラックスのために腹式呼吸をとりいれている方もいらっしゃると思います。深く息を吸い込んで息を止め、ゆっくりと吐き出す呼吸を繰り返すと、副交感神経系が優位になって、ゆったりした気分になります。この腹式呼吸は、効果は大きいものの、慣れないうちは案外難しいです。これに比べて、ため息は誰もが体験している日常的な呼吸です。練習なしで気楽に気分をリセットできるお得な呼吸法といえます。

ため息を司る脳の仕組みについては長らく明らかでなかったのですが、最近、ため息をコントロールする神経回路があることが『Nature』誌に発表されました。この回路で使われる化学物質をマウスの脳に投与すると、ため息が10倍に増えたそうです。また、この回路を遮断すると、ため息が完全に消失するそうです。ため息がつけないなんて、困りますっ。感情や気分と結びつきの強い「ため息」には、私たちが意識していなかったたくさんの適応的な意義がありそうです。

「ふうっ。」
では、これから『ため息』(リスト作曲)を聞いて、リラックスタイムとしましょう♪

参考文献
井上佳奈・山本佑実・菅村玄二(2016)ため息はやる気を高める―随意的嘆息が安堵と動機づけに与える効果―, 心理学研究 87, 133-143

Li, Janczewski, Yackle, Kam, Pagliardini, Krasnow (2016) The peptidergic control circuit for sighing. Nature 530, 7590

Vlemincx, Van Diest, Lehrer, Aubert & Van den Bergh (2010) Respiratory variability preceding and following sighs: A resetter hypothesis. Biological Psychology, 84, 82-87