ESSAY心理学エッセンス

人に優しく、自分に優しく

人に優しく、自分に優しく

大久保 千惠

2021.09.01

#こころの健康

先日、実習生を引率して、こども園にうかがってきました。実習の引率とはいうものの、子どもさんたちの屈託のない明るい笑顔に癒され、元気をいただきとても楽しい一日でした。その中で、とても素敵な光景にであいました。3歳児のクラスで、数人の子どもさんたちが集まって難しそうなジグソーパズルに挑戦し始め、それぞれがつながった部分を広げながら部分ごとに組み立てていました。そして、自分が手にしたパーツがほかのお子さんが組立てている部分のものであると気づくと、「はい、○○ちゃん」とお互いに渡し合ったのです。たしかに、アメリカのマイケル・トマセロは、「人は、生まれながらにして助けるように生まれてくる」とし、18ヶ月の幼児が,さまざまな援助場面(他者が落としたものを拾うなど)において、他者を助けることを明らかにしました(Warneken & Tomasello, 2006)。しかしながら、多くの3歳児は、他者の心を推測しその行動を理解する認知能力である「心の理論」は、まだ獲得されていないとされています。相手の立場に立って考えることはまだ難しい年齢のお子さんが、協力してパズルを完成させようとしている様子にすごいなあ、と感心しました。
援助行動が、生得的なものか学習によるものかの議論はあるのですが、わたくしたちは他者に対して共感的理解や思いやりをもって接します。では、自分に対して優しくすることはどうでしょうか。自分に優しい気持ちを向けたり自分を思いやったりする概念をセルフ・コンパッションといいます。アメリカの心理学者のクリスティーン・ネフが概念化し、Self-Compassion Scale(SCS)という心理尺度を開発しました(Neff, 2003)。その後の研究で、セルフ・コンパッションが高いと、不安や抑うつが低く、幸福感が高いことが明らかにされてきています。
みなさんは、自分に優しくしていらっしゃいますか?自分に優しく、というとそれはわがままではないか、などとお思いになるかもしれませんが、そうではありません。セルフ・コンパッションで検索すると瞑想法なども紹介されていますが、日常的に簡単にできることもあると思います。たとえば、自分が日々精いっぱい頑張っていると自分を褒めたり、自分が今やりたいことを少しでもやってみたり、反省や後悔ばかりせず、「これでいいのだ」と自分を認めたりすることなどをされてみてはいかがでしょうか。「これでいいのだ」は「天才バカボンのパパ」(ご存じでない方も多くなってしまったでしょうか)の決め台詞ですが、わたくしは、不要不急な後悔の気持ちに圧倒されそうになった時など「これでいいのだ~」と思うことにしています。この原稿の提出も遅れてしまいました。これは「これでいいのだ~」ですましてよいのかしら?
みなさん、人に優しくするのと同じかそれ以上にご自身を慈しんでくださいね。