ESSAY心理学エッセンス

“丁寧”に過ごしたい!ーストレスマネジメントの視点からー

“丁寧”に過ごしたい!ーストレスマネジメントの視点からー

田中 芳幸

2024.09.13

#こころの健康

何であんなこと言っちゃったんだろう?,そうだ,明後日の会議の準備をしなくちゃ,あっ,今日の夕飯は何にしよう?,そいえば草むしりもしないと...。この原稿を書こうとパソコンへ向かいながら,ついつい,あれこれ余計なことに頭が向いてしまう私です。皆さんは,過去の後悔や未来の心配事に捉われてしまうこと,日々の生活の中でどのくらいありますか?これでは,わざわざ心理的なストレスを増やしているようなものですね。
とはいえ,ちゃんと反省すべきは反省しながら,先のことを想定して今やるべきことをやるということは大切で,私たちの心はストレスを増幅するようにできているみたいです。そんな離れがたいストレスや不安感なのに,それを消そうとして頑張っちゃう。でも消えないから何もする気が起きなくなって,何もしないでいるから結局グルグルと後悔や心配事を考え続けちゃう。この悪循環から抜け出したいけど抜け出せない。
旅行へ行って気分転換したり,贅沢して美味しいものを食べたりすることは,ストレス軽減に効果的なはずです。ジムへ通って運動するのも良いでしょう。でも,ストレスのためにこれらのことをするのは時間的にも金銭的にも負担が大きい。ある研究(Crum & Langer, 2007)によると,自らの日々の仕事(ホテルの客室清掃)が良い運動であり活動的な生活習慣の要件を満たしていると伝えられることによって,体重や体脂肪の減少といった実際の身体的な変化にまでつながったことが報告されています。ましてや心はどうでしょうか?
何か大きなイベントを計画したり,ストレス対処のために負担をともなう何かをはじめたりするのではなく,まずは,ストレスのマネジメントにもつながりそうな日常生活内の事柄を見つけてみませんか?生活必需品買い出しや通勤時に,買うものや業務予定をあれこれ考えるのではなく,その瞬間に五感へ伝わる風の流れや草花の色へ思いを馳せる。お茶を淹れるとき(飲むときだけでなく)に,立ちのぼる香りやお湯が流れる音に意識を向ける。そんないつもどおりの生活を丁寧に過ごすという些細なことが,過去や未来への捉われから私たちを解放してくれますし,これがストレスマネジメントにもなっている(と信じる)。
そういえば数か月前,下校道中のドウダンツツジの花を1m置きに摘んでみたりにおいを嗅いだりして帰りが遅くなる小2の娘を「寄り道しないでさっさと帰ってきなさい」と叱ってしまった...。私などよりずっと丁寧にその瞬間を生きている子なのでは?...と,また過去に捉われだした私です。う~ん,言うは易し行うは難しです。今に五感で受け取っている事柄を感じながら“丁寧に”生活する,この姿勢を娘から学ぼうと思います。

引用文献
A. J. Crum & E. J. Langer (2007). Mind-Set Matters: Exercise and the Placebo Effect. Psychological Science, 18, 165-171. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2007.01867.x