不都合を活かすという創造的問題解決
~日比野学長の退職記念講演「ネガティブ・ケイパビリティ」に寄せて~

不都合を活かすという創造的問題解決
~日比野学長の退職記念講演「ネガティブ・ケイパビリティ」に寄せて~
2025.03.10
#こころの健康
日比野先生が学長に就任された年に私もこの大学で勤務させていただくことになり、そして学長を退任される同じ年に、退職することとなりました。京都橘大学で過ごした日々を振り返ると、どこか不思議な気持ちになります。そんな折、先日、日比野先生の講演を拝聴し、現代社会においてポジティブな側面ばかりが注目される風潮の中で、ネガティブな側面にも目を向けることの重要性を改めて感じました。その思いを込め、副題には恐縮ながら先生の講演のタイトルの一部をお借りしました。
私たちは、便利で快適な社会の中で暮らしており、今や家にいながらショッピングができる時代です。不便で面倒なことは「タイパ(Time performance)」という言葉が象徴するように、避けたいという傾向がますます強まっています。しかし、不便さが必ずしも悪いとは限りません。例えば、最近、駅の構内で横向きに設置されたベンチを見かけることがあります。電車に対して正面を向いていた方が乗車しやすく、効率的であるように思えますが、あえて横向きに配置されているのには理由があります。このデザインは、酔った人が線路に転落するのを防ぐために考えられたものです。国土交通省のデータによると、令和5年度のホームからの転落事故は年間2,293件発生しており、飲酒が関係するケースも少なくありません。たった90度向きを変えるだけで、転落事故を防ぐことが期待できるのです。このように、必ずしも「利便性」や「効率性」だけが最善とは限らず、時には「不便さ」や「面倒なこと」を受け入れることが、安全やより良い社会につながることもあります。
現代社会は、明確な答えをすぐに出すことが求められる時代になっています。しかし、すべての問題に即座に解決策があるわけではありません。時には、答えの見えない状況を受け入れ、焦らずにその中で試行錯誤することが重要になります。ネガティブ・ケイパビリティ*1という知恵は、そうした不確実性と向き合いながら、より深い理解や創造的な問題解決*2へと導く原動力となるのではないでしょうか。
追記
総合心理学部の先生方、事務の皆さま、学生の皆さま、6年間本当にお世話になりありがとうございました。
用語解説
*1 ネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)
不確実性の中にありながら、事実や理由を性急に求めることなくそれらを受け入れることができる能力。(玉木他、2021)
*2 創造的問題解決(Creative problem solving)
数多くの解答がある問題の解決を、従来とは異なった新しい方法によって行うこと。(日本創造学会創造性関連ワード集)
本文章の一部はChatGPTを利用して推敲・修正しました。