迷うこと

迷うこと
2020.03.24
臨床心理学分野
まもなく四月を迎え,新しい進路や生活が始まる方も多い季節になりました。いろいろと迷い,不安を持ちながらも,新たな決断をされた方もいれば,現状維持を選ばれた方もおられるでしょう。そこまで大きな決断ではなくとも,晩ご飯を麺類にしようか和食にしようかと日々迷いは尽きないものです。迷っていると抜け道や早く解決したいと,迷いがないとどれだけ楽だろうと思うこともよくあります。どこか迷いがないことが「良きこと」のように思ってしまいます。もちろん,迷いなく生きていける時は,それはそれで幸せなことでしょう。しかし,迷いがまったく無いほうがよいのでしょうか。
‘どっちでも好きな方を選んでいいよ’って言われ選べないほど迷い,幸せな気分になったり,‘どちらか選ばないといけないのか…’と気分が落ち込んだりと,迷うということは気分の動きが伴います。フワフワした感じや沈んだ感じといった表現があるように,どこか安定したものから外れているように感じることが多いようです。安定や安楽な状態から離れた気分を不-安定や不-安といい,落ち着いた状態が安-心というのかもしれません。安心を願いながらも,日々迷い,大小の差はあっても安定した状態から遠ざかったり近づいたりと気分の動きを経験しています。こころが動いていると言えるかもしれません。迷いのなかでいるときは,不-安定で不-安があり,しんどく感じるときもあるでしょう。しかし,そのしんどさにある程度耐えられているときは,こころが活躍しているときと言えるのではないでしょうか。
心理療法を考えるとき,迷いがなくなることがゴールなのか,ふとそんな疑問が生じたりします。迷える中に自分があると確かに感じられると,それはそれで大切なのかもしれないと感じるときがあります。心理療法やカウンセリングは,健康や適応を多面的にとらえ,自分自身も含め,人間をどのように考えるのかと直結した学問であり実践です。迷いや不-安をどのように考えるのか,さらにさまざまな価値があるもの,価値がないとみなされているものを再度とらえなおし,人間の在りようを多面的にとらえる,そんな学問だろうと考えています。とは言いつつ,こう言い切ってしまうことにも迷っています(笑)。