コロナウィルス感染症と心理学

コロナウィルス感染症と心理学
2020.08.05
臨床心理学分野
みなさん,こんにちは。
普段通りの生活を送っておられる方もおられれば,コロナウィルス感染症の流行の影響を受け,普段と違った生活を送っておられる方も少なくないでしょう。私自身も含めて‘おつかれさま’って声をかけあって,この事態を乗り切っていきたいものです。
さまざまなことが自粛され,今までに経験したことのない状況になっています。ちょっと外に出るにもマスクをし,感染する・させるリスクとそれにまつわる風評被害のリスクなどを気にかけ,気づかないところで緊張していることも多いのではないでしょうか。
そのような普段とは少し違った状況とストレスとの関連について,ライフイベントとストレスとの関連の研究があります(Holmes & Rahe, 1967)。また,日常的に経験する煩わしさ(デイリーハッスルズ)などが影響するという研究もあります(Lazarus & Cohen, 1977)。コロナ感染症流行のニュースを見聞きし,マスクや経済状況を心配するデイリーハッスルズや,4月に編・入学したりし生活が変化したライフイベントを経験している方もおられるでしょう。そして同じような事態に対し,‘頑張ろう’と思う人もいれば不安になる人もおられます。また同じ人でも頑張ろうと思える時と,不安になるときもあり,ライフイベントやデイリーハッスルズとストレスの間には,どのように事態を認識するか,直接的・間接的経験があるのか,またソーシャルサポートシステムの有無など,いろいろな要因が関連していると思われます。このような状況を「心理学」ではどのように考え,どのように貢献していくのか興味関心を持たれた方は,健康心理学を中心に学ばれるといいでしょう。ソーシャルサポートやストレッサーやストレス状況に対する認知的評価に関心がある方は社会心理学に興味が沸くかもしれません。また,個人がどのようにストレッサーを評価し,そのなかでどう対処できるのかなど,個人の認知と行動に関心をもって学ぶことができるかもしれません。
目の前の一人の人に関心を最大限示し,その方自身がよりよく生きようとする力を信じ,敬意と関心を示し続けるかかわりに心理療法は重点を置き,そのような関わりに関心がある方は心理療法学に興味が持てるかもしれません。例えば,感染予防で‘ソーシャル・ディスタンス’が大切と言われています。感染を予防するため,物理的距離を保つことは自分自身と相手の安全を護るために重要であるということです。心理療法の場面でも物理的距離を保ちつつ,目の前の人にとって社会との距離や身近な人との距離,心理的な距離がどのように影響を受けているのかも考えていくことになります。SNSを用いてヴァーチャルなつながりが心理的な親密な関係を経験する機会になっている場合もあるでしょう。または物理的距離を保つことが求められて初めて心理的距離について考えるきっかけになった方もおられるでしょう。なんとなくの流れで時間と空間を他者とともに過ごし,それである程度の所属感を感じ,日々やり過ごしてきた方にとっては,それが阻害され不安になっている方もおられるでしょう。‘ソーシャル・ディスタンス’は,意識的に距離をとることで「関係」を考えざるを得ない状況だと言えます。今まで何気なく過ごしてきた生活が強制的に考えさせられる状況に追いやられることは「危機」だといえます。そのようなとき,私たち心理学を学ぶ者として,学問を中心に据え,学問からこの事態を眺めこころの隙間やゆとりを創り出し,経験したことがない事態に対し,振り回されず,危機(crisis)を変化(change)への挑戦(challenge)への好機(chance)に変えていきたいものです。
Holmes, T. H., & Rahe, R. H. (1967). The social readjustment rating scale. Journal of psychosomatic research, 11, 213-218.
Lazarus, R. S., & Cohen, J. B. (1977). Environmental stress. In Human behavior and environment (pp. 89-127). Springer, Boston, MA.
日本心理学会:もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために
(米国心理学会のWeb記事“Keeping Your Distance to Stay Safe”の日本語訳)
https://psych.or.jp/special/covid19/Keeping_Your_Distance_to_Stay_Safe_jp/(2020年7月31日参照)